業務委託契約書を受け取ったときにチェックすること

投稿:2022年6月7日更新:2022年6月7日コラム , 契約書

業務委託は法律用語ではない?!

ある企業から仕事を依頼され、その契約書として「業務委託契約書(案)」が送られてきました。担当者はどこをチェックしたらよいでしょうか。主なチェックポイントを7つあげましたので、参考にしてみてください。

契約書のタイトルに「業務委託契約書(案)」とありますが、一口に業務委託といってもその内容はさまざまです。

民法には委任や請負の規定はありますが、業務委託そのものズバリの規定はありません。ですので、ある「業務委託契約」が実際どのような内容の約束なのかは、契約書に書かれたことをよく読んで、民法に規定された似た内容の条文から類推するなどの解釈を行う必要があります。そのため契約当事者間でも業務内容に関する認識の違いなどが起こりがちで、その認識違いがトラブルの原因にもなってしまいます。

ポイント①:「業務」の中身はなにか?

まずは、契約の対象となる委託される「業務」の中身を確認しましょう。

「業務」の中身があいまいに記述されたままですと、受託者が予期していない仕事を押し付けられたり、安い委託料のまま定額使い放題のような扱いを受けたりするなど、トラブルの元になってしまいます。

「業務」の中身はできるだけ具体的に書くようにしましょう。いわゆる5W1H(いつ、どこで、誰が、誰に、何を、どのように)を意識すると記述が具体的になります。「業務」の中身を具体的に記載するのに、1つの条文の中に含めると冗長になってしまう場合には、業務内容を別紙にまとめ、契約書に添付するなどの方法を検討するのが良いでしょう。

また、「業務」が仕事の完成を目的とするものなのか、それとも作業や事務処理が行われることを目的とするものなのかも、できるだけ明確にすべきです。前者を民法でいう請負型、後者を民法でいう準委任型といい、委託料の支払い条件にも関わってきます。ただし、実際の業務の中身によっては、請負型か準委任型かの切り分けは必ずしも明確にできないのも事実です。法的な性質論をあえて棚上げにするために「業務委託」という契約名称にしている側面もあります。ですので、この点はあまり深追いせずに、次項の委託料の支払いなど個別の規定で実質的に不利にならないように手当てすれば良いでしょう。

ポイント②:委託料はいつ支払われるのか?

委託料の支払い時期がしっかり定められているかどうか。仕事の完成を目的とした請負型なら仕事の完了や完成品の引き渡しと引き換えに報酬が支払われるのが一般的です。ただし、請負型でも業務の履行期間が長い場合などは、受託者側のリスクが大きくなるので、着手金を定め、一部前払いを求める場合があります。

事務作業を行うことを目的とする準委任型であれば、作業量に応じて報酬が支払われるのが一般的です。

また、委託料の範囲に何が含まれるのかも、明確にする必要があります。たとえば、調査の業務委託で、現地までの交通費やインタビューの文字起こしなどの業務に伴って発生する実費は誰が負担するのか(委託料に含まれるのか)は決めておくべきでしょう。

第●条(委託料)
1.委託者は受託者に対し、本件業務の対価として、金○○○○円(消費税別)を支払うものとする。
2.委託者は、前項に定める金額に消費税及び地方消費税相当額を加算した金額を、2022年○月○日までに、受託者が指定する銀行口座へ振り込みの方法で支払うものとする。なお、振込手数料は委託者の負担とする。
3.本件業務を遂行するにあたって発生する受託者の交通費、宿泊費、運搬費は受託者が立替え、受託者からの請求に基づき、委託者が支払うものとする。

ポイント③:業務委託の期間は無理がないか?

委託期間については、委託業務を遂行するのに十分な期間が確保できているかを確認しましょう。

委託者側から資材の提供を受けないと、受託者側で業務に着手できない場合には、資材の提供のスケジュールも含めて契約書に盛り込むようにすると、受託者側に業務遂行の遅れが生じたとしてもあとでそれは委託者側の資材提供の遅れのためであると主張しやすくなります。

ポイント④:再委託は禁止されていないか?

委託者は、受託者の能力やスキルを評価したうえで、業務委託先として選定しているので、受託者が委託者の同意なく受託業務を第三者に再委託できるとすることは望ましくないと考えるでしょう。逆に、受託者にとっては仕事を完成させられればよく、再委託を含めたさまざまな手段の可能性を確保しておきたいと考えるのではないでしょうか。

そこで、再委託を一切禁止するのではなく、受託者がしっかり監督することを条件に、一定範囲について再委託を認める条文を受託者側は提案したいところです。

第●条(再委託)
1.受託者は、受託者の責任において、本件業務の一部を受託者が業務委託契約又はこれに類する契約を締結した第三者(以下これらを「再委託先」という)に、本件業務を必要な範囲で再委託することができる。ただし、受託者は、委託者が要請した場合、再委託先に関する情報を書面をもって報告するものとする。
2.受託者は、再委託先が本契約の各条項を遵守するよう管理監督するとともに、それらの業務の実施にかかる一切の行為に関して、受託者がなしたものとして、委託者に対し一切の責任を負うものとする。

ポイント⑤:中途解約ができるようになっているか?

業務委託契約の中途解約ができるほうが受託者にとって有利なのか不利なのかは、一概には言えません。資材を調達してしまったのにもかかわらず、契約を中途解約されてしまうと、その手間が無駄になってしまうということもあり、中途解約は封じておいた方がよい場合があります。しかし、事情が変わって委託者が望まなくなった仕事を、契約があるからといってやり続けるということのほうが、社会的には無駄なことといえますので、一般的には業務委託契約の中途解約を認めつつ、受託者側に不利益が発生した場合にはその不利益を適正に補填する方向で処理すべきと考えます。

第●条(契約期間)
1.本契約の期間は、2022年〇月〇日から1年間とする。
2.前項に関わらず、委託者及び受託者は、3カ月前に相手方に書面により通知することにより、契約期間中においても本契約を解約することができる。
3.本契約の期間満了の3カ月前までに、相手方から本契約を更新しない旨の書面による通知がないときは、本契約は同一条件でさらに1年延長され、その後も同様とする。

ポイント⑥:契約不適合責任は限定されているか?

受託者が行った業務の内容で、当初は見つからなかった欠陥があとになって見つかることがあります。完成品を収めたり、業務完了したりして、すぐ欠陥が見つかったのであれば、修理したり、代替品を提供したり、もう一度やり直したりする責任が受託者にはあります。しかし、いつまでもその責任を負い続けなければならないとなると、受託者側は負担ですので、契約書でしっかりと範囲を限定しておく必要があります。

なお、契約書に特に定めない場合には民法の規定が適用され、「その不適合を知った時から1年以内」に通知すれば、委託者は、追完等の請求ができることになります(637条1項)。

第●条(契約不適合責任)
 委託者は、受託者から受領した納入品に不適合を発見した場合、納入時から6か月以内に限り、受託者に対して、当該不適合の追完を求めることができる。この場合、当該不適合の追完の方法として受託者は修補又は代品の納入を選択することができるものとする。受託者が代品の納入を選択した場合、これについて生じた費用は受託者が負担するものとする。

ポイント⑦:損害賠償の範囲は限定されているか?

受託者が業務委託契約を履行するにあたり、委託者や第三者に損害を発生させることがあります。その場合に、民法の原則では、受託者の事由から生じた損害は、社会通念に照らして受託者の責めに帰することができない場合を除いて、すべて受託者が賠償する責任を負うことになります(民法415条1項)。そして、損害賠償は通常生ずべき損害のほか、特別の事情によって生じた損害であっても受託者が予見すべきであった場合にはその特別損害の賠償も請求することができるとされています(民法416条)。

しかし、システム開発などの業務委託契約は長期間にわたる契約となることが多く、また委託者の事業の基幹に関わるシステムが目的物の場合などは、その欠陥が容易に大きな損害を引き起こしてしまうことも予見できるため、受託者する側からは予め適切な範囲に賠償責任を限定しておかないと、怖くて業務を受託できません。

そこで、よくあるのが、損害賠償額の上限を定める方法です。損害賠償額の上限を定めておけば、最大のリスクを把握することができます。ただ、損害賠償額の上限を決めるだけでは、賠償すべきでない損害までその範囲内で負担することになりかねませんので、賠償すべき損害の範囲についても、たとえば受託者のミスから直接生じた損害に限り、間接的に生じた損害を含まないとするなどです。

第●条(責任の制限)
1.受託者が委託者に対して負うべき損害賠償責任並びに本契約に定める受託者の義務の履行又は不履行に関し委託者が被った損害に対する受託者の賠償責任は、委託者が現実にこうむった通常の直接損害のみを対象とし、かつ、当該損害発生の直接の原因となった本件業務の対価として受託者が委託者よりすでに支払いを受けた委託料相当額を当該損害賠償額の累積限度額とする。
2.委託者は、前項の定めが、債務不履行、契約不適合責任、不法行為その他の請求原因の法的性質いかんにかかわらず、本件業務の遂行その他の本契約上の義務に関する受託者の委託者に対する責任の限度を定めたものであることを確認する。

まだまだあるチェックポイント

ほかにも、業務委託契約の遂行により生じた成果物の知的財産権が誰に帰属するか、受託者が委託者から預かった個人情報をどのように管理すべきか、業務委託契約で契約当事者が知りえた秘密情報をどのように管理すべきか、など業務委託契約書で定めるべき事項は多くあります。また、業務委託契約書には印紙税がかかるのかなど、難しい

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東京都杉並区の阿佐ヶ谷で活動している行政書士です。
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