相続とはどういう制度か
相続とは、死亡した人の財産上の権利・義務を、一定の近親者が引き継ぐことをいいます。相続される人のことを被相続人といい、相続する人を相続人といいます。
人は誰でもいつかは死亡します。人が死亡したときに、その人が持っていた財産をどうするか。日本の民法は被相続人からみて一定の範囲の親族(相続人)にその財産を当然に引き継ぐことを認めています。
他方で、人は生きている間は自分の財産を自由に処分することができます。これを私的自治の原則といいます。この延長で民法は、遺言を残すことで、被相続人に死後の自分の財産のコントロールをある程度自由に行うことを認めています。
相続は、モノの売り買いと同じように権利義務が引き継がれる原因のひとつと位置づけられています。ただし、売買等の契約は財産が個別的に移転するのに対して、相続は財産に関する一切の権利義務や法律上の地位が包括的に移転する点で異なります。財産に関する権利義務が個別的に移転することを「特定承継」といい、財産に関する権利義務や法律上の地位が包括的に移転することを「包括承継」といいます。相続は包括承継の典型例です。
相続はいつ、どこで開始するか
相続がいつ開始するかについて、民法は「死亡によって開始する」(民法882条)と定めています。
被相続人が行方不明で生存しているのか死亡しているのか分からない場合、いつまでも相続が始まらないので、民法は不在者の生死不明の状態が長期間継続した場合に、不在者が死亡したものとみなすことができる失踪宣告という制度を設けています。失踪宣告を受けた人は死亡したものとみなされ、その人について相続が開始します。
相続が開始される場所については、「被相続人の住所において開始する」(民法883条)と定めています。
誰が相続人になるか
誰が相続人になるかについて民法は、まず「被相続人の子は、相続人となる」(民法887条1項)としています。子であれば、実子、養子、また嫡出子か非嫡出子かを問わず、第一順位の相続権が認められます。養子は、じつの親(実親)との親族関係が無くなる特別養子以外は、実親についての相続権も残ります。
被相続人の子が、相続の開始以前に死亡しているときは、子の子が代襲して相続人となります(代襲相続)。たとえば、Aの子Bが死亡し、Bには子(Aからみると孫)Cがいるとして、その後にAが死亡すると、Aの相続財産につき、CがBを代襲して相続人となります。Cは胎児であってもよいとされています(民法886条1項)。Bが相続欠格または廃除により相続権を失ったときも、Cは代襲相続できます。民法はこのような代襲相続を認めることで、相続人間の不公平を回避しようとしているのです。
被相続人に子(や代襲相続人)がない場合には被相続人の親や祖父母に第二順位の相続権が認められ、親も祖父母もない場合には被相続人の兄弟姉妹に第三順位の相続権が認められます。
以上の相続人とともに、常に相続権が認められるのが配偶者で、他の相続人がいても同順位で相続人になります(890条)。配偶者は、正規の婚姻をした者に限られ、内縁の場合には現在のところ相続権は認められません。もちろん死亡時に配偶者であることが必要です。すでに離婚している元配偶者には相続権はありません。
どのような財産が相続されるか
どのような財産が相続の対象となるのでしょうか。
たとえば、父親が死亡し、妻と子が相続する場合、父親が所有していた不動産、動産等が相続財産となります。また、父親が第三者に対して有していた貸金返還請求権などの債権も相続財産の対象に含まれます。
逆に、年金受給権や生活保護受給権等は、被相続人にのみ認められる権利(これを一身専属権といいます)ですので、相続財産には含まれません。親権や著作者人格権も、一身専属権ですので、相続財産に含まれません。
では、生命保険金はどうでしょうか。
生命保険金とは、生命保険契約に基づき、被保険者の死亡に伴い保険会社から受取人に支払われる金員をいいます。生命保険金の受取人が特定の相続人である場合は、その相続人は生命保険契約に基づき保険会社から保険金を直接受給することになりますので、保険金受給権は相続財産に含まれません。受取人が被保険者(被相続人)本人の場合は、被保険者が死亡したことで相続人がその地位を相続することになりますので、生命保険金も相続財産に含まれます。
相続分とは
相続人が複数人の場合、共同で相続したことになり、共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を包括承継します(民法899条)。相続分には、被相続人が遺言で相続分を指定する指定相続分と、民法が遺言が無い場合に備えて相続分を指定する法定相続分とがあります。
順位 | 相続分 | 相続分 |
---|---|---|
配偶者と第一順位相続人 | 配偶者 2分の1 | 子供等 2分の1 |
配偶者と第二順位相続人 | 配偶者 3分の2 | 父母等 3分の1 |
配偶者と第三順位相続人 | 配偶者 4分の3 | 兄弟姉妹 4分の1 |
子供や父母、兄弟姉妹等が複数人いる場合は、同順位の相続人間は均等に分割されます。
被相続人は、共同相続人の相続分について上記の法定相続分と異なる相続分を遺言によって定めることができます(民法902条1項)。自分の財産であるから、まずは被相続人がどうしたいかを決められ、その指定がなかったときの補完として、法定相続分の規定が置かれているのです。
被相続人が、共同相続人中の一人もしくは数人の相続分のみを定めたときは、他の共同相続人の相続分は法定相続分によることになります(民法902条2項)。たとえば、Aに配偶者Bと子CDEがいる場合で、Aが遺言でCの相続分を2分の1と指定した場合、BDEは残りを法定相続分の割合で分割し、Bが4分の1、DEがそれぞれ8分の1の相続分になります。
遺留分とは
被相続人に財産の自由な処分を認めると、相続人が全く相続を受けられなくなる場合が生じえます。民法は、相続人が被相続人の財産に依拠して生活していた最小限度の生活保障を図ること、そして共同相続人間の公平な財産相続を図る趣旨から一定範囲の財産を相続人が相続財産から得ることを認めています。この一定範囲の財産を遺留分といいます。
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分を侵害するような贈与または遺贈があったときは、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます(遺留分侵害額請求権。民法1046条1項)。
相続人にも選ぶ権利がある(ただし期間制限あり)
相続財産がマイナスの財産ばかりで相続人が承継を望まない場合にも承継しなければならないかというとそうではありません。相続人の意思で、無限定に相続財産を相続すること(単純承認)、相続財産のプラスの財産の範囲でマイナスの財産を相続すること(限定承認)、相続財産を一切相続しないこと(相続放棄)を選択することができます。
相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から3カ月以内にこの選択をしなければなりません。相続人が限定承認または相続放棄をしないままに3カ月が経過した場合には、単純承認したものとみなされます。
なお、相続放棄をするには意思能力が必要です。障害のある方で意思能力・判断能力が欠けているとされる方は自分で相続放棄をすることができません。そのような方が相続放棄をするには、成年後見制度を利用するしかありません。成年後見制度を利用するにも、上記の3カ月の期間を超える見込みの場合には、家庭裁判所に機関の伸長を求めることができます(民法915条1項但書)。
遺産分割とは
共同相続人に相続が生じ、共有となった相続財産について共同相続人の間で協議し、相続財産を各相続人に分配し、これらの財産を各相続人の単独の所有とする手続きを遺産分割といいます。
遺産分割の具体的な方法としては、①現物分割による方法、②換価分割による方法、③代償分割による方法があります。①現物分割による方法とは、遺産の現物を分割する方法をいい、②換価分割による方法とは、遺産を金銭に換算して分割する方法をいいます。大小分割による方法とは、特定の遺産を相続人に承継させ、承継を受けた相続人が他の相続人に対して相続分に応じた金銭を支払う方法を言います。たとえば、遺産である株式について共同相続人の一人に承継させ、承継を受けた共同相続人が他の共同相続人の相続分に応じた金銭を支払うといった方法です。
遺産分割の効力は、相続の開始の時にさかのぼって効力を生じます。
いつかはくるその時にそなえて準備を
誰でもいつかは死亡しますので、あとに残されるお子さんや配偶者などの相続人が困らないよう、準備しておくことが大切です。特に障害のあるお子さんがいらっしゃるご家庭の場合、その子にどのような財産を残すか、民法の定めのとおりではなく、細やかな配慮が必要になってきます。ご自分が元気なうちに、ご希望をはっきりと遺言書で書き残しておくことが大事です。
ただし、遺言書は、民法で定める形式がととのっていないければ、せっかく書き残しても効力を生じません。
遺言書の書き方や内容など、ご不明な点、ご不安な点などありましたら、当事務所までご相談ください。