今回は、事業計画のなかでも特に重要で、多くの方が頭を悩ませる「物件探し」についてです。障害者グループホームの物件には、障害者総合支援法だけでなく、建築基準法や消防法といった様々な法律が関わってきます。「どんな物件を選べばいいの?」「法律の基準が複雑でわからない…」そんな不安や疑問を抱えていませんか?
この記事を最後までお読みいただければ、グループホームの物件探しで押さえるべき基本的なルールから、特に杉並区で開業する場合の注意点まで、具体的なステップがわかります。安心して物件探しを進めるための一助となれば幸いです。
ポイント1:物件探しの前に知っておくべき「立地」の考え方
まず大切なのは、物件の「場所」です。障害のある方が地域社会の一員として暮らしていくためには、どのような環境が望ましいでしょうか。障害者総合支援法では、グループホームの立地について以下のように定められています。
- 入所施設や病院の敷地内ではないこと
- 住宅地、または住宅地と同程度に地域住民との交流が確保される地域にあること
これは、障害を個人の問題ではなく、社会との関わりの中に障壁があるとする「社会モデル」の考え方に基づいています。利用者さんが孤立せず、近隣のお店で買い物をしたり、地域のイベントに参加したりと、ごく当たり前の日常を送れる場所を選ぶことが、グループホームの理念を実現する第一歩となります。
具体的には、駅からのアクセス、スーパーやコンビニ、医療機関までの距離などを考慮し、利用者さんの生活のしやすさを最優先に考えましょう。
ポイント2:建物の種類と法律上のルール(建築基準法)
グループホームとして利用できる建物は、一戸建てやアパート、マンションなど様々です。しかし、どんな建物でも良いわけではありません。特に「建築基準法」のルールを理解しておくことが不可欠です。
グループホームは「寄宿舎」扱い
障害者グループホームは、建築基準法上「寄宿舎」という用途に分類されます。そのため、もともと「一戸建て住宅」として建てられた物件をグループホームとして利用する場合、「用途変更」の手続きが必要になることがあります。
特に、事業に使う部分の床面積が200平方メートル(約60.5坪)を超える場合は、「用途変更の確認申請」という正式な手続きが必須です。この手続きには専門的な知識が必要で、時間や費用もかかります。物件探しの段階では、まずは200平方メートル未満の物件を候補にすると、手続きの負担を軽減できるでしょう。
必ず確認したい!居室の広さと設備
利用者さんが生活するお部屋(居室)や共有スペースにも、守るべき基準があります。
- 居室の広さ:収納を除き、一人あたり7.43平方メートル以上(約4.5畳)が必要です。
- 共有設備:利用者さんが交流できる居間や食堂のほか、お風呂、トイレ、洗面所、キッチンを設ける必要があります。
- 採光・換気:快適な生活環境を保つため、窓の大きさなどにも基準が定められています。
物件の内見をする際は、間取り図とメジャーを手に、これらの基準を満たしているかを一つひとつ確認することが大切です。
ポイント3:命を守るための絶対条件(消防法)
共同生活を送る場所だからこそ、火災への備えは最も重要です。「消防法」では、建物の規模や利用者の状況に応じて、様々な消防用設備の設置が義務付けられています。
- 自動火災報知設備:煙や熱を感知して火災を知らせる設備です。原則として全てのグループホームに設置が必要です。
- 消火器:初期消火に不可欠です。
- 誘導灯:避難口を示す緑色のランプです。
- スプリンクラー設備:自力での避難が難しい方の入居が多い場合など、一定の条件で設置が義務付けられます。
これらの設備が未設置の物件を選ぶと、後から高額な設置工事が必要になるケースも少なくありません。物件探しの段階で、不動産会社や物件のオーナーに消防用設備の状況を必ず確認しましょう。最終的には、所轄の消防署に事前相談に行くことを強くお勧めします。
ポイント4:【杉並区】で開業するための重要な手続き
杉並区で障害者グループホームを開設する場合、都や区独自のルールにも注意が必要です。特に重要なのが、事業者指定のプロセスです。
まずは杉並区役所への「事前相談」から
障害福祉サービスの事業者指定は東京都が行いますが、令和6年4月から、指定申請の前に事業所を設置する区市町村への事前相談が必要になりました。杉並区で開業する場合、まずは物件の候補が見つかった段階で、区の担当窓口に相談することがスタートラインとなります。
地域の障害福祉計画との整合性を確認する意味合いもあり、この事前相談を経ずに申請を進めることはできません。早めに相談の予約を取り、事業計画や物件の概要について説明できるように準備しておきましょう。
- 杉並区の主な相談窓口:保健福祉部 障害者施策課 指導担当
- 所在地:ウェルファーム杉並(杉並区天沼3丁目19番16号)
- 連絡先:事前に電話で相談日時や必要書類を確認してください。
ポイント5:専門家への相談も選択肢に
ここまでご説明したように、グループホームの物件探しには、法律の知識から地域独自のルールまで、非常に多くの確認事項があります。物件の契約を進めてしまってから「この物件では指定が取れない…」といった事態に陥らないためにも、慎重な判断が求められます。
ご自身ですべてを調べるのが不安な場合や、手続きに割く時間がない場合は、私たちのような障害福祉サービスを専門とする行政書士にご相談いただくのも一つの方法です。物件の賃貸借契約書チェックから、建築基準法や消防法に関する調査、そして杉並区や東京都への申請手続きまで、トータルでサポートすることが可能です。
まとめ
障害者グループホームの物件探しは、単に「良い家」を探すだけではありません。利用者さんが地域で安心して暮らせる環境であり、かつ、様々な法律の基準をクリアした「適合物件」である必要があります。今回ご紹介した5つのポイントを参考に、一つひとつ着実に確認作業を進めていきましょう。
当事務所では、杉並区での障害者グループホーム開設に関するご相談を随時お受けしております。「この物件で大丈夫か見てほしい」「何から始めればいいかわからない」など、どんな些細なことでも構いません。どうぞお気軽にお問い合わせください。あなたの想いを形にするお手伝いができれば、これほど嬉しいことはありません。