障害者グループホーム(共同生活援助)の開設は、社会的に非常に意義深い事業ですが、その実現までには多くの手続きと周到な準備が求められます。特に東京都では、質の高いサービス提供を確保するため、明確な手順が定められています。この記事では、グループホームの開設を検討されている方のために、事業計画の立案から指定を受けて事業を開始するまでの主要な流れを、順を追って分かりやすく解説します。
グループホーム開設の大きな流れ
グループホームの開設準備は、「行政への相談前に行うべき土台づくり」と「東京都への正式な指定申請手続き」という、大きく2つのフェーズに分けることができます。特に、最初の「土台づくり」をいかに丁寧に行うかが、その後の手続きをスムーズに進めるための鍵となります。しっかりとした事業計画と体制を整えることで、手戻りなく申請プロセスに進むことができます。
ステップ1:来庁相談前の「土台づくり」が最も重要
行政との具体的な相談に入る前に、事業の骨格を固めておく必要があります。ここで事業の方向性や体制が具体的になっていないと、その後の手続きを進めることが難しくなります。
法人格の取得と事業計画の策定
まず、グループホームを運営するためには、株式会社、合同会社、NPO法人などの法人格が必要です。法人の定款を作成する際には、その事業目的に「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)に基づく障害福祉サービス事業」といった文言を必ず記載する必要があります。
並行して、事業の根幹となる事業計画を練り上げます。どのような障害特性のある方を対象とするのか、どのような支援を提供するのか、定員、職員の配置、収支の見込みなどを具体的に文書に落とし込んでいきます。
物件の確保と関係各所への事前相談
事業計画と並行して、グループホームとして使用する物件を探し、確保の見通しを立てます。その上で、開設を予定している地域の行政機関や関係機関へ事前に相談することが不可欠です。
- 区市町村の障害福祉担当課:地域の障害福祉計画や利用者のニーズを把握するために、必ず相談しましょう。例えば、杉並区で開設を検討されている場合、まずは杉並区役所の障害者施策課などの担当窓口に相談し、地域の実情について情報を得ることが第一歩となります。
- 消防署:物件の用途変更や消防設備の設置について、事前に相談し、指導を仰ぐ必要があります。
- 建築指導課など:建物の構造や用途が、建築基準法に適合しているかを確認します。
人員・連携体制の構築
質の高いサービスを提供するためには、適切な人材の確保と、緊急時に備えた連携体制の構築が求められます。
- 人員の確保:事業の要となるサービス管理責任者(利用者の個別支援計画を作成・管理する専門職)をはじめ、世話人や生活支援員といったスタッフの確保に目処を立てておきます。
- バックアップ施設との連携:利用者の日中の活動の場や、緊急時の短期入所先などを担う、他の障害福祉サービス事業者との連携体制を確保します。なお、他の共同生活援助事業所や相談支援事業所は、このバックアップ施設になることはできません。
- 医療機関との連携:利用者の健康管理や、病状が急変した際に迅速に対応できるよう、協力関係にある医療機関(歯科を含む)を定めておく必要があります。
ステップ2:東京都への正式な手続き
事業の土台が固まったら、いよいよ東京都(窓口は多くの場合、公益財団法人東京都福祉保健財団となります)への正式な手続きに進みます。ここからは、定められたスケジュールに沿って進めることが強く求められます。
事業者向け説明会への参加
来庁相談を行うための前提条件として、開設を希望する事業所の管理者またはサービス管理責任者(もしくはその予定者)が、東京都などが開催する事業者向け説明会に、直近1年以内に参加している必要があります。
来庁相談(指定希望日の約4ヶ月前)
電話で事前予約の上、東京都福祉保健財団の窓口で、これまでに準備してきた事業計画や物件の状況などを説明します。この際、事業計画書や物件の平面図などの資料を持参する必要があります。
指定申請書類の提出(指定希望日の3ヶ月〜2ヶ月前)
来庁相談での助言を踏まえ、指定申請書類一式を準備します。指定を受けたい月の3ヶ月前の末日までに書類一式を持ち込み、内容の打ち合わせを行います。その後、修正などを経て、2ヶ月前の末日までに不備のない状態で書類が受理される必要があります。
書類審査と現地確認
提出された書類の審査が行われると同時に、指定予定日の1ヶ月前頃から、財団の職員が事業所の所在地を訪問する現地確認が実施されます。この確認の際には、管理者またはサービス管理責任者の立ち会いのもと、申請どおりの設備や備品が整っているか(利用者がすぐにでも生活を始められる状態か)をチェックされます。
指定・事業開始
書類審査と現地確認の両方が完了し、すべての基準を満たしていると認められると、晴れて事業者として指定され、計画した日から事業を開始することができます。
まとめ
障害者グループホームの開設は、事業計画の策定から物件探し、関係機関との連携、そして厳格なスケジュールに沿った申請手続きまで、多岐にわたる準備が必要です。特に、行政との公式な相談が始まる前の「土台づくり」のフェーズで、いかに具体的に計画を詰められるかが成功の分かれ目となります。
これらの手続きは複雑で、多くの時間を要します。もし少しでも不安や疑問を感じたら、ぜひ専門家にご相談ください。障害福祉サービス事業を専門とする行政書士として、事業計画の段階から指定申請まで、伴走しながらサポートさせていただきます。





