障害者福祉サービスの提供形態は多岐にわたりますが、中には業務の一部を外部に委託(請負)することも考えられます。しかし、この「請負」の形式が適切でない場合、法律違反となる「偽装請負」とみなされるリスクがあることをご存じでしょうか。この記事では、障害福祉サービス事業者が安心して事業運営を行うために、厚生労働省のガイドラインに基づいた「偽装請負」の判断基準と、適正な請負を行うための具体的な注意点について解説します。
請負と労働者派遣、その違いは「指揮命令権」にあり
適正な請負契約であるかどうかの判断で最も重要な点は、「注文主」と「労働者」の間に指揮命令関係が生じているかどうかです。労働者派遣事業では、派遣先の指揮命令を受けて派遣労働者が業務に従事します。これに対し、請負事業では、請負業者が雇用する労働者(請負労働者)は、注文主の指揮命令を受けず、あくまで請負業者の指揮命令のもとで業務を遂行します。契約の形式が請負となっていても、実態として注文主が労働者へ直接指示を出している場合は、労働者派遣事業と見なされ、「偽装請負」として法律違反となるのです。
偽装請負と判断される主なポイント
厚生労働省のガイドラインは、請負が適正であるか否かを判断するための具体的な基準を定めています。以下のいずれかに該当しない場合、偽装請負と判断される可能性が高まります。
- 業務の遂行に関する管理:仕事の割り当てや順序、進捗の調整などを請負業者が自ら行っているか。
(例:障害福祉サービス事業者が、就労支援の個別訓練計画に基づき、利用者の作業内容や手順を決定し、指示を行う) - 労働時間に関する管理:始業・終業時刻、休憩時間、休日の設定などを請負業者が自ら管理しているか。また、時間外労働や休日労働の指示を請負業者が自ら決定しているか。
- 服務規律に関する管理:服装や職場秩序の維持、風紀などに関する規律を請負業者が自ら定めているか。
- 業務処理の独立性:業務に必要な資金を請負業者が自らの責任で調達し、支弁しているか。また、業務処理について、民法等に規定された事業主としての責任(損害賠償責任など)を負っているか。
- 単なる労働力の提供ではないこと:請負業者が自らの責任と負担で機械・設備・資材などを準備するか、または自らの企画や専門的な技術・経験に基づいて業務を処理しているか。
これらの判断基準は、障害福祉サービス事業の特性に合わせて慎重に検討する必要があります。特に、利用者の支援に関わる業務においては、支援計画に基づいた個別性の高い対応が求められるため、指揮命令関係の所在を明確にしておくことが不可欠です。
適正な請負契約を結ぶための注意点
請負契約を締結する際には、以下の点に注意し、適正な運用を徹底することが重要です。
- 契約書の内容を明確にする:業務の範囲、責任の所在、指揮命令系統などを具体的に明記します。契約書で請負と定めていても、実態が伴わなければ意味がありません。
- 指揮命令系統を厳格に守る:注文主(障害福祉サービス事業者)は、請負労働者に対し、直接、業務の進め方や時間に関する指示を行わないようにします。すべての指示は、請負事業者の管理責任者を通じて行う必要があります。
- 情報共有のルールを定める:請負労働者との円滑なコミュニケーションを保つために、情報共有の方法や範囲を事前に取り決めておきましょう。業務に必要な情報の提供と、指揮命令にあたる指示を明確に区別することが大切です。
- 杉並区の地域資源も活用する:杉並区には、就労継続支援B型事業所など、業務の一部を請け負うことのできる事業所が多数存在します。適正な請負契約の要件を満たすことで、地域との連携を深め、より質の高いサービス提供につながる可能性も広がります。
まとめ
障害福祉サービス事業における請負は、業務の効率化や質の向上に繋がる有効な手段です。しかし、その契約形態が「偽装請負」と判断されると、事業運営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。重要なのは、契約書だけでなく、実際の業務運営において「指揮命令権」が常に請負事業者側にあることを徹底することです。この点について不安がある場合は、専門家である行政書士にご相談いただくことをお勧めします。当事務所では、障害福祉サービス事業に特化した支援を通じて、皆様が安心して事業を継続できるようサポートいたします。お困りのことがあれば、いつでもお気軽にご連絡ください。





